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浦和地方裁判所川越支部 事件番号不詳 判決

主文

被告人岩沢忠寿を罰金二万円に処する。

被告人加藤義雄を罰金五万円に処する。

被告人太田七三を罰金二万円に処する。

被告人池田喬穂を懲役六月に処する。

被告人比留間常吉を懲役六月に処する。

被告人岩沢忠寿同加藤義雄及び同太田七三が右罰金を完納することができないときは二百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

被告人池田喬穂及び同比留間常吉に対しいずれもこの裁判が確定した日から二年間右当該懲役刑の執行を猶予する。

被告人池田喬穂から金五万円を、被告人比留間常吉から金三万円を、それぞれ追徴する。

訴訟費用中証人大野茂に支給した分は被告人加藤義雄及び同池田喬穂の連帯負担とし、証人中尾健児に支給した分は被告人岩沢忠寿同太田七三及び同比留間常吉の連帯負担とし、証人小川太郎に支給した分は被告人池田喬穂の負担とし、証人作田富士雄に支給した分は被告人比留間常吉の負担とし、証人高橋勝利に支給した分は被告人加藤義雄の負担とする。

被告人比留間常吉に対する昭和二十九年四月二十六日附起訴状による公訴はこれを棄却する。

理由

昭和二十五年二月八日埼玉県入間郡入間川町(現在は狭山市入間川)所在米軍ジヨンソン基地の周辺にある被告人岩沢忠寿同加藤義雄同太田七三外五十数名所有の山林畑合計約七万坪が同基地の住宅用地として接収され、その一部に住宅等が建てられたので、右被告人等地主一同は同年十二月二十五日右接収地全域につき宅地に地目変換の登記手続を為したため昭和二十六年度からこれに宅地としての固定資産税が賦課されることとなつたところ、同年十一月二十八日初めて支払われた右接収地の借上料は依然山林又は畑の賃貸価格(山林坪一銭畑坪二銭六厘余乃至三銭)を基準とした極めて少額のものであつたので、一同団結して借上料値上運動を起すべく入間川基地住宅用接収地地主組合を結成し組合長に松本仙太郎(昭和二十八年四月からは被告人岩沢忠寿)副組合長に被告人加藤義雄役員に被告人岩沢忠寿同太田七三外数名が選ばれ被告人加藤義雄は東京方面松本その他の役員は地元方面を分担してそれぞれ関係当局と折衝して陳情情報の蒐集等の運動を始めることとなつた。その頃被告人池田喬穂は東京特別調達局管財部不動産評価課(後に東京調達局不動産部不動産評価第一課)に勤務し従前から接収地借上料(昭和二十七年七月二十八日以降は賃借料という)並びに土地買収価格の各評価算定等の事務に従事し該事務については同課内のエキスパートといわれていたところ、同年八月一日機構改正により右評価第一課に土地第一係同第二係の二係がおかれ、分課規程上は両係とも賃借料並びに買収価格の各評価算定事務を行うこととなつていたが、運用上は賃借料の評価算定事務は第二係で買収価格の評価算定事務は第一係で行うこととなり、被告人池田喬穂は第一係に配属され係長代理として専ら買収価格の評価算定事務を分担することになつたが、第二係長に任命された大野茂が事務不慣であつたたゆ、被告人池田喬穂は同課課長班長等の上司から当分の間賃貸料の評価算定事務についても同係長に助言をなすよう命ぜられていたので、同年九月十五日事務引継後も助言をなすことにより間接的には該事務にも関与したばかりでなく昭和二十八年初頃には臨時に本件接収地の一部につき賃借料算定の検算事務を自ら行つたこともあつた。

次に被告人比留間常吉は昭和二十五年四月頃から東京特別調達局入間川監督官事務所(後に東京調達局入間川出張所)に勤務し不動産係長(後に不動産課第一係長)として接収地借上料の評価算定に要する基礎資料の調査(現況調査公簿による地目等級地積等の調査等)報告(調査確認書の作成提出)その他の事務を分掌していたものである。

ところで被告人加藤義雄は借上料値上運動のため昭和二十七年春頃東京特別調達局不動産評価課に出向き知合の同課課長石川市太郎の紹介で被告人池田喬穂と相知り同被告人が自分と同じくかつて住宅営団に勤めていたことがあるのを知つて急に親密の間柄となり、その後はしばしば同被告人を訪れて借上料値上問題について意見を交換し同問題に関する同局内部の情報を得ようと努めた。当時同局内の空気は終戦処理費によつて宅地と化した接収地に宅地としての借上料を支払うのは不可であるとの意見が強かつたが同年六月頃になり宅地に地目変換をなした接収地には固定資産税の差額(山林又は畑の税額と宅地の税額との差額)だけは補償するのが相当であるとの意見が政府に承認され同月二十八日附調達乙発第六十六号をもつて昭和二十六年十月一日以降昭和二十七年七月二十七日までの分については右差額補償の意味で借上料の改定を行うことになつたが(第四次改定)、その頃被告人加藤義雄は被告人池田喬穂から逸早くこの情報を得ることができた。また同年七月二十八日以後の賃借料改定の問題については同年四月頃から特別調達庁において検討が行われ同年六月下旬頃にはその要綱原案ができ上り賃借料は固定資産評価額を基準としてこれに一定の率を乗じた金額に固定資産税額を加えた金額になる模様であることが当時新聞紙にも報道されたが、被告人加藤義雄は直ちに被告人池田喬穂にこのことを確めたところ同被告人はそれは確実であること従つて賃借料の値上をはかるには固定資産評価額を引き上げることが先決的であることを告げたので、被告人加藤は大いに意を強くしたが、果して同年十月初には関係各省会議で新基準案が内定し中央不動産審議会の議を経て同年十一月四日附調達規第十五号をもつて新基準が決定した。これによると同年七月二十八日以降の賃借料は固定資産評価額に宅地は百分の五山林は百分の四を乗じた額に固定資産税額を加えた額になるのであつた(第五次改定)。さて前示のように借上料又は賃借料の評価算定事務に直接又は間接に従事していた被告人池田喬穂がその管轄地域内の本件接収地の地主であり地主組合の副組合長である被告人加藤義雄に対し斯様な情報を提供することはその本来の職務範囲には属しないとしてもこれと密接に関連する事項であるというべきである。

ところで斯様な情報を得た被告人加藤義雄は松本その他の組合役員にこれを報告した上これらの者と相はかつて接収当時各地主の代表者として接収地の賃貸借契約を締結した入間川町長村上昇に地目変更に伴う借上料改定の申請を依頼したので同町長は同年十二月八日東京調達局長あて「接収土地地目変更に伴う土地評価額の申請について」と題する申請書を同局入間川出張所に提出した。これによると接収地の旧地目山林の旧賃貸価格一銭旧地目畑の旧賃貸価格二銭六厘余乃至三銭が接収地全域に亘り(事実上宅地化したのはその半に満たない)新地目宅地として一様に賃貸価格坪二円同年度の固定資産評価額はその九百五十倍と評定されてあつた。同出張所不動産課第一係長として前示のような事務を分掌していた被告人比留間常吉はこの申請書を受理した上即日これに基いて現況調査公簿照合等をなし申請書のとおりである旨の確認書を作成して東京調達局不動産部評価課に送付したので、同課第二係においては右申請書確認書等の資料に基き第四次第五次改定の各基準に従つて本件接収地の借上料又は賃借料の各評価算定をなし(被告人池田喬穂が自らその一部につき臨時に検算事務をなしたことは前示のとおりである)所定の手続を経て、昭和二十八年三月十日第四次改定分借上料合計約二百四十四万八千百三十三円、同年六月五日第五次改定分の昭和二十七年七月二十八日以降昭和二十八年三月三十一日までの分賃借料合計金六百三十六万千五百六十一円の各支出負担行為が認証されその頃各地主に各これが支払われ、ここに右値上運動は一先成功した。そこで

(一)  被告人加藤義雄は同年七月初頃東京都中野区江古田一丁目七八番地被告人池田喬穂方において同被告人に対し右情報提供等の謝礼の趣旨で現金五万円を供与しもつてその職務に関し贈賄し

(二)  被告人岩沢忠寿同加藤義雄及び同大田七三は共謀の上

(1)  同年六月二十八日頃同県同郡豊岡町黒須五〇一番地被告人比留間常吉方において同被告人に対し前示事務処理の謝礼の趣旨で金一万円を

(2)  同年十二月二十五日頃同所において同被告人に対し同趣旨で金一万円を

それぞれ供与しもつてその職務に関し贈賄し

(三)  被告人岩沢忠寿及び同大田七三は外二名と共謀の上同年七月二十三日頃同所において被告人比留間常吉に対し同趣旨で金一万円を供与しもつてその職務に関し贈与し

(四)  被告人池田喬穂は前示(一)の日時場所において被告人加藤義雄から同被告人が前示趣旨で供与するものであることを知りながら金五万円の供与を受けもつてその職務に関し収賄し

(五)  被告人比留間常吉は前示(二)(三)とおり三回に亘り各日時場所において被告人岩沢忠寿等から同被告人等が前示趣旨で供与するものであることを知りながら合計金三万円の供与を受けもつてその職務に関し収賄し

たものである。

(証拠省略)

法律に照すと被告人岩沢忠寿同加藤義雄及び同太田七三の判示各所為はそれぞれ刑法第百九十八条第百九十七条第一項前段第六十条(但し判示(二)(三)につき)罰金等臨時措置法第二条第三条に該当するからその所定刑中罰金刑を選択しいずれも刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十八条第二項により各罪の罰金の合算額以下において右各被告人をそれぞれ主文掲記のとおりの罰金に処し、被告人池田喬穂及び同比留間常吉の判示各所為はいずれも刑法第百九十七条第一項前段に該当するから被告人池田喬穂に対してはその所定刑期の範囲内において被告人比留間常吉に対しては同法第四十五条前段第四十七条第十条に依り犯情の最も重い判示最終の罪の刑に加重をなした刑期の範囲内においてそれぞれ主文掲記のとおり各懲役に処し被告人岩沢忠寿同加藤義雄及び同太田七三が右当該罰金を完納することができないときは同法第十八条により二百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置し、被告人池田喬穂及び同比留間常吉に対しては同法第二十五条第一項に則りいずれも二年間当該懲役刑の執行を猶予し、同法第百九十七条ノ四後段により被告人池田喬穂から金五万円被告人比留間常吉から金三万円をそれぞれ追徴し、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文第百八十二条に従い主文掲記のとおり訴訟費用を被告人等に負担させるものとする。

被告人比留間常吉に対する昭和二十九年二月二十日附起訴状記載の公訴事実第二の事実と同被告人に対する同年四月二十六日附起訴状記載の公訴事実とは重複するから刑事訴訟法第三百三十八条第三号に則り後の公訴はこれを棄却すべきものとする。

よつて主文のとおり判決する。(昭和二九年一〇月八日浦和地方裁判所川越支部)

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